助手席にピアス
家族団欒の時を終え、お風呂に入り、自室に向かう。
上京して数年が経つのに自分が高校を卒業した時の状態を保ったままの部屋は、少しだけ私をセンチメンタルにする。卒業アルバムの中の同級生を懐かしみ、窓際にお行儀よく並ぶぬいぐるみたちに心が和む。
でも今一番会いたいのは、彼氏の亮介。バタバタした数日の間、一回も亮介の声を聞いていなかった私は、ベッドに腰を下ろすとスマートフォンを握りしめてコールをした。
「もしもし? 亮介?」
まるで、付き合い始めた頃のように心臓がドキドキと高鳴った。
『私と会えなくて寂しかった?』って聞いたら、亮介はどんな返事をしてくれる?
期待に胸を膨らませながら、亮介の声を心待ちに耳を澄ませた。けれど……。
「亮介なら今、シャワーを浴びているけど」
スマートフォンから聞こえてきたのは、愛しい亮介の声ではなかった。
あなたは誰? なんで亮介のスマートフォンに出るの? それからシャワーって?
次から次に湧き上がる疑問が頭に浮かぶ中、スマートフォン越しの女が笑う。
「この前はピアスを拾ってくれてありがとう。まさか亮介の車の助手席に落ちているなんて、思ってもみなかったわ」