助手席にピアス
あまりの衝撃で、握っていたスマートフォンを落としそうになる。
でもここで弱気になったらダメだ。亮介の彼女は、この私なんだから……。
「あ、あなたは亮介と同じ大学に通っていた女性(ひと)?」
「私? さあ、どうでしょうね。でも私は、あなたのことをよく知っているわよ。青山雛子さん」
どうして私の名前を知っているの?
余裕すら感じる女の声に頭が混乱する。その時、微かに亮介の声が聞こえた。
「あゆみ?」
亮介が口走った『あゆみ』という名に、心あたりがあった。それはとても身近で、ほぼ毎日と言っていいほど、顔を合わせている人物の名前。
「あゆみって……もしかして、あなたは白石あゆみさんなの?」
「ええ。そうよ。いつも私の受注を入力してくれてご苦労様」
そう。彼女はハニーフーズの社員で、亮介と同じ営業担当をしている人物。スレンダーな身体のどこにそんなパワーが眠っているのかと思うほど、パワフルに営業に駆け回り、優秀な成績をキープし続けている。
亮介と同僚の彼女の白石あゆみさんが、助手席にピアスを落とした浮気相手なの?
なにが本当で、なにが嘘なのか、わからなくなった時……。
「おい、あゆみ! 余計なこと言うなよ」
亮介のこの言葉を最後に、通話が切れてしまった。