助手席にピアス

今、もう一度自分から亮介にコールし直す勇気はとてもない。かといって亮介から連絡がきても、冷静に話し合える自信もない。

私はスマートフォンの電源を落とすと、ベッドに身体を沈めた。

亮介に電話をするまでは、卒業アルバムを見てセンチメンタルになっていたのに……。

今では白石あゆみさんと交わしたやり取りが、頭の中でグルグルと回る。

どうして、亮介の携帯に彼女が出たの? どうして、助手席のピアスのことを彼女が知っているの?

その答えは単純明快。亮介は白石あゆみさんと浮気をしていた。これが、事実。

亮介の嘘つき……。

誕生日に出かけたリゾートホテルでのサプライズも、ケーキを口に運び合ったふたりだけの甘い時間も、瞬く間にセピア色に褪せていく。

「うっ……」

とうとう堪え切れなくなった涙腺が崩壊して、視界があっという間にユラユラと揺れ始め、滴が頬を伝う。

ひとり暮らしをしている東京のワンルームマンションだったら、声を張り上げて泣けるけど、ここは私が高校を卒業するまで過ごしていた実家。

亮介のバカ……。

口には出せない思いを胸に抱きながら、ベッドの上で声を殺して涙を流した。

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