助手席にピアス
遠くからコンコンという音が聞こえた。ハッとして目を開けると、ドア越しに声をかけられる。
「雛、俺だけど、ちょっといいか?」
この声は、琥太郎。
そう言えば昔はよく、琥太郎が私の家にふらりと立ち寄っては、一緒の時間を過ごしていたっけ……。
いつの間にか泣きながら眠ってしまっていた私は、ベッドから慌てて起き上がると鏡を覗き込む。頬を濡らしていた涙はすでに乾いていたけれど、赤く腫れた目を見れば泣いたことが一目瞭然だ。
ひどい顔……。
幼なじみだからと言って、こんなブサイクな顔を見られたくない。だから自室のドアを、ほんの数センチだけ開ける。
「琥太郎、なんの用?」
「なんの用って、相変わらずかわいげがねえなって……あれ? 雛? オマエまだ泣いてんの?」
「泣いてないもん!」
もう……。変なところに鋭いんだから……。
琥太郎はうつむきがちな私の顔を覗き込むと、数センチ開けたドアに手をかける。
「そりゃ、バアちゃんがいなくなって寂しいのはわかるけどさあ。オマエ、そんなんで東京に帰って大丈夫なのか?」
強引にドアを全開にしてズカズカと部屋に入ってくる琥太郎に向かって、思わず声を張りあげた。