助手席にピアス
「だから、泣いてないって言っているでしょ! 琥太郎のバカ!」
亮介に吐き出せなかった怒りを、目の前にいる琥太郎にぶつけることは卑怯だ。でも幼いころから私のことを知っている琥太郎にだからこそ、遠慮なくすべてをぶつけられる。
「雛? なにがあった?」
初めこそ、まだ私がおばあちゃんを偲んで泣いていたと、勘違いをした琥太郎だったけれど……。
そうではないと、すぐに見破った。
悲しみが大波のように押し寄せて、また私を襲う。辛い現実を打ち明けることは、今の私にはまだできない。
瞳から零れ落ちる涙を隠すために、琥太郎に背中を向けた。
「雛……俺の前では我慢するなよ」
強い力で手首を掴まれ、身体が反転する。突然の出来事に驚いた私の頬を、琥太郎の温かな指先が滑るように流れて、涙を掬い上げていった。
「琥太郎……慰めてくれる?」
「ああ。いいぜ」
琥太郎の胸に飛び込むと、広い背中に腕を回して涙を流す。
「雛はいつまで経っても泣き虫だな」
「そんなこと……ないもん」
「いいや、雛は泣き虫だ。今も昔もな……」
琥太郎の大きな手で頭を撫でられながら思い出すのは、学生時代の失恋のことだった。