助手席にピアス
-----近所に同じ年の女の子がいなかったせいもあり、同じ保育園に通っていた琥太郎が毎日の遊び相手だった。幼い私たちの面倒を見てくれたのは、琥太郎のお兄ちゃんの朔ちゃん。
おもちゃの奪い合いになった時も、おやつの取り合いになった時も『琥太郎。女の子には優しくしてあげないといけないよ』と、いつも私を贔屓(ひいき)してくれる朔ちゃんが、大好きだった。
そして、この思いが恋だと自覚したのは中学に入学してから。
三組の本田君がカッコいいとか、テニス部の藤先輩が素敵だとか、周りの女子が口々に噂をしているのを耳にした私は、下校途中で琥太郎に尋ねた。
「ねえ、琥太郎。本田君よりも藤先輩よりも、朔ちゃんの方がずっとカッコよくて、ずっと素敵だと思わない?」
学ランではなくて、ブレザーにネクタイの制服がよく似合う、大人っぽい高校生の朔ちゃんを頭の中に思い浮かべる。
「雛、オマエ、兄貴のことが好きだろ?」
「私は朔ちゃんも好きだし、琥太郎のことも嫌いじゃないよ」
朔ちゃんも琥太郎も大切な幼なじみ。だからあたり前のように返事をしたのに……。
「バーカ。ほんと、雛は鈍感だな。いいか? 兄貴に対する雛のその気持ちは恋じゃねえのか、って言ってんだよ」
雷に打たれたような衝撃とは、このことなんだと思った。