助手席にピアス
だって昔、保育園でおもらしをして、泣きべそをかいていた琥太郎が!
小学校四年生まで、母親と一緒にお風呂に入っていた琥太郎が!!
私より先に“恋”という気持ちを知っていたなんて、信じられない!!
まさか琥太郎の口から“恋”なんてロマンティックな言葉が飛び出すとは夢にも思わなかった。
「雛? ようやく兄貴のことが好きだって気づいたか?」
驚きのあまり足を止めた私に振り返った琥太郎の口もとが、意地悪く上がる。
「へ、変なこと言わないでよ! それより琥太郎はどうなの? 好きな人いるの?」
こうなったら反撃だ。今まで恋バナなどしたことなかった琥太郎の顔を、興味津々に覗き込んだ。すると……。
「お、俺のことは、どうでもいいだろ! あ、そうだ、俺、コンビニに寄るから」
琥太郎は無駄に視線をキョロキョロと泳がす。
「あ、待って! 私もコンビニに行く」
「あ? なら俺は家に帰る。じゃあな」
「なにそれって、ちょっと琥太郎!?」
私の呼び止める声を無視した琥太郎は、耳を真っ赤にしながら、その場から足早に立ち去ってしまった。
琥太郎の意味不明な言動に首を傾げて考えることは、朔ちゃんへの思い。
やっぱりこれって琥太郎の言う通り、恋なのかな……。
朔ちゃんのことを考えただけで頬が火照るのを感じた私は、手で顔を仰ぎながらコンビニに向かった。