助手席にピアス

胸が張り裂けるように痛み始めた私が我に返ったのは、腕を引っ張られる強い力だった。

「雛、家まで送る」

「琥太郎……どうして、ここに?」

琥太郎は質問には答えず、ただ私の腕を掴んだまま黙って公園を後にする。そして角を曲がり、公園が見えなくなった道路の脇で、私の腕をようやく離した。

「雛……ごめん」

「どうして琥太郎が謝るの?」

琥太郎は、なにも悪くない。朔ちゃんだって、なにも悪いことをしていない。ただ好きな人とキスをしていただけ……でしょ?

「俺……兄貴に彼女がいるの、知っていたんだ。今日は兄貴の誕生日だから、彼女をウチに招待してみんなで食事をしたんだ。雛から電話があった時、兄貴は彼女を送るために、家を出たばかりでさ……。俺がちゃんと説明していれば、雛を悲しい目に合わせなくて済んだのに……ごめんな」

なにも知らなかったのは、自分だけだったんだ……。

朔ちゃんに対する思いは恋だと自覚して、勝手に盛り上がってプレゼントまで用意した。それなのに、朔ちゃんに思いを告げる前に失恋をしてしまった。

「こんな辛い思いをするなら、恋なんて知らない方がよかった……。朔ちゃんを好きにならなければ、よかったよ……」

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