助手席にピアス

誰かが言っていたっけ。初恋はレモンキャンディーみたいな甘酸っぱい味だって。

でも、そんなの嘘だ。だって今の私には、しょっぱい涙の味しか感じないもん……。

悲しみが涙となって頬を伝う。

「雛……そんなこと言うなよ」

「琥太郎に私の気持ちなんか、わかるわけないじゃない!」

琥太郎はなにも悪くないと、頭の中ではわかっている。だけど失恋した悲しみを、どうやって処理したらいいのかわからない。私に恋を教えた琥太郎に、切ない胸のうちをぶつけてしまった。

もう、嫌だ……。

朔ちゃんに失恋した挙句、琥太郎に八つあたりをしてしまった自分に苛立ちが募る。すべての思いを断ち切るために、瞳から零れ落ちる涙を手の甲で拭うと、まだほんのりと熱を帯びているクッキーを地面に思い切り叩きつけた。

「雛!」

時間をかけて焼いた朔ちゃんへのプレゼントのクッキーが、透明フィルムの袋を突き破り、足もとのアスファルトの上に無残に広がる。

「これって兄貴へのプレゼントだろ?」

「……私からのプレゼントなんか、朔ちゃん喜ばないもん。私、もう帰るから……」

この場に居るのが、ただの友達だったら、作り笑顔を見せて『失恋しちゃった』と強がりを言えるのに……。

幼なじみの琥太郎には、それができない。幼なじみの琥太郎には、本音しか言えないよ……。

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