助手席にピアス
琥太郎といると、どんどん自分が嫌な女の子になっていくような気がした私は、家に向かって足を一歩進めた。けれど……。
背後から、ガサゴソと物音が響く。足を止めて振り返ると、そこにはアスファルトの地面にしゃがみ込んでいる琥太郎の姿があった。
「琥太郎? なにしているの?」
不可解な行動をしている琥太郎の正面に回り込むと、ハッと息を呑む。
「琥太郎! ヤメてよ!! そんなの食べたら、お腹壊しちゃうよ!」
私が見たのは、地面に叩きつけたクッキーを、無理やり口に押し込んでいる琥太郎の姿。
どうして、そんなことをするの?
とにかくクッキーを口に運ぶ動きを止めようと、琥太郎の手を掴んだ。でも、その力はとても強くて、私にはどうすることもできなかった。
「琥太郎……お願いだからヤメてよ……お願い」
再三のお願いで、ようやく琥太郎の動きが止まった。そして、口をモグモグと動かしながら、訳のわからないことを話して勝手にムせる。
「びながぁ……づぐっだ、ボッ!!」
「琥太郎……なに言っているのか、わからないよ」
どうしようもなく格好悪い琥太郎の背中を擦ると、ようやく咳が治まった。琥太郎は手の甲で口もとを拭うと両手で私の腕を掴む。そして真っ直ぐな視線を向けた。