助手席にピアス
琥太郎のこのスタイルは昔と同じまま、ちっとも変らない。けれど私は、昔と同じままではない。
「彼氏に浮気された」
「浮気?」
ベッドの上に腰を下ろした私はコクリと頷く。
「車の助手席にピアスが落ちていたことがあったし、さっき彼氏に電話したら女が出た。これだけの証拠が揃ったら浮気確定でしょ」
「……」
パティシエになると言って上京した私は勝手に夢をあきらめて、琥太郎の知らない男性と付き合い、裏切られた。
「彼氏も浮気相手の女も同じ職場なんだ……。仕事もおもしろくないし、会社辞めてこっちに戻ってこようかな……」
幼なじみの琥太郎なら、こんな可哀想な私に同情して味方になってくれるはず。そう思ったのに……。
「雛? 地元に帰ってきてなにがしたいんだよ」
「なにって……こっちで適当に仕事見つけて、親孝行して。いい人見つけて、適当に結婚する」
決して本気で、そう思ったわけじゃなかった。ただ、おばあちゃんのお葬式のために、数日間、実家で過ごした快適さと、失恋したばかりの寂しさが、私を少しだけ投げやりにしたのだ。
それなのに琥太郎は短い黒髪をワシャワシャと掻き上げると、ムッとした不機嫌な表情を浮かべた。