助手席にピアス
「悪いけど俺、適当なことを言う雛の味方にはなれないから」
「え?」
確かに適当なことを言ったとは思うけれど、そんな言い方しなくてもいいんじゃない?
即座に反論しようとした私が口を閉ざしたのは、琥太郎の眉が悲しそうに下がっていたから。
「俺さ……本当は雛が上京するの反対だった」
「なに? 今頃……」
「今だから言うんだよ! 俺がどんな気持ちで雛の上京に賛成したと思ってんだよ! 雛、少しは俺の気持ちに気づけよ! 鈍感!」
昔から琥太郎は、ことあるごとに『鈍感』と、私を罵る。
「私のどこが、どんな風に、鈍感なのよっ!」
売り言葉に買い言葉。お互いの声が徐々に大きくなり、感情がヒートアップする。
「うるせーよ! 鈍感女!」
この言い争いに終止符を打ったのは、琥太郎だった。イスから立ち上がり、大股で部屋を横切ると、あっという間に姿を消す。
もう! いったいなにをしにウチに来たのよ!?
「なによ! 訳わかんない。琥太郎のバカ!」
まだ階段を下りているはずの琥太郎の背中に向かって、大声で叫んでやった。