助手席にピアス
慶弔休暇を終えた私が出社をすると、美菜ちゃんが「大変だったね」と声をかけてくれた。美菜ちゃんの気遣いをうれしく思い、少しだけ心が和んだのも束の間……。
「あら。もう出社されたのね。じゃあ、これ。私の受注分、お願いしてもいいかしら?」
「……はい」
受注伝票を受け取った私の前で、さりげなく髪を掻き分ける仕草をしたのは、営業の白石あゆみさん。彼女の耳たぶには、以前私が亮介の車の助手席から拾った、クロスのシルバーピアスが輝いていた。
もしかしたら、そのピアスは亮介がプレゼントしたものかも……。
そう思うと、胸が苦しくなった。
そして、私と視線を合わせずに、素早く営業に出かけてしまった亮介の態度にも心が痛んだ。
「雛子、樋口さんとなにかあった?」
いつもと違う私たちの様子に気づくなんて、さすがです。
「美菜ちゃん、ランチの時に話を聞いてくれる?」
「もちろんだよ」
本当は、この胸に燻っている思いを今すぐ美菜ちゃんに聞いて欲しかった。けれど週の初めの月曜日は、土日に自動受注された処理が山のようにある。
気持ちを仕事モードに切り替えた私は、無心でパソコンに向かった。