助手席にピアス
「そうか。それじゃあ、驚かせちゃったね。雛子ちゃん、ごめんね。あ、オレンジジュースでいい?」
「う、うん」
朔ちゃんは、いつだって優しい。そして朔ちゃんはいつまで経っても、私を子ども扱いする。
だって、私はもう、オレンジジュースをオーダーされて、喜ぶ歳じゃないのに……。
ちっとも私のことを理解してくれていない朔ちゃんに、少しだけ寂しさを感じた。それでも無理に笑みを浮かべると、婚約者の莉緒さんに向かって挨拶をする。
「初めまして。青山雛子です。婚約おめでとうございます」
「ありがとう。雛子さんのことは朔太郎から聞いています。よろしくね」
すぐに挨拶をしなかったにもかかわらず、莉緒さんはにこやかに話をしてくれた。
透き通るような白い肌、吸い込まれそうな大きな瞳、そして穏やかな笑顔。女の私から見ても、莉緒さんはとても魅力的な女性だ。
「雛子ちゃん。このあと、上のレストランで食事をしたら、ちょっと付き合ってもらいたい場所があるんだ。少し帰りが遅くなるかもしれないけど、ちゃんと送るから心配しないで」
「え? あ、うん。」
曖昧に返事をしたのは、どこか上の空で朔ちゃんの話を聞いていたから。
気合を入れてオシャレなんかしてくるんじゃなかった。だって、私がどんなに頑張っても、容姿端麗で、上品で、性格もよさそうな莉緒さんに、敵う訳ないもん……。
運ばれてきたオレンジジュースを飲みながら、朔ちゃんからのデートの誘いを真に受けてしまったことを後悔した。