助手席にピアス
「うん。そうする。琥太郎に遠慮なんかしてあげないんだから」
お皿の上に落としたフィレステーキを口に運ぶと、その味をゆっくりと噛みしめる。
「幼なじみっていいわね」
今まで私と朔ちゃんの会話を黙って聞いていた莉緒さんが、ポツリと呟いた。
「はい」
ひと言だけ返事をすると、お皿の上に一粒の涙が零れ落ちる。
「朔ちゃん、このフィレステーキ……今まで私が食べたお肉の中で、一番柔らかくておいしい」
「そっか」
「うん」
琥太郎がごちそうしてくれたディナーは流したうれし涙のせいで、ちょっぴりしょっぱい味がした。
食事を終えると、朔ちゃんの車に乗り込む。おばあちゃんの葬儀のために実家に帰る時は、私が助手席に座ったけれど、本来この助手席は婚約者の莉緒さんの指定席。
私は後部座席に座り、朔ちゃんと莉緒さんの後ろ姿を眺める。ふたりは同じ会社の先輩と後輩だと、朔ちゃんは教えてくれた。
私と亮介だって、同じ会社の先輩と後輩。それなのになのに、朔ちゃんと莉緒さんは半年後に結婚をする。
この差は一体、なんなの?
嫉妬染みたことを考えていると、次第に瞼が重くなってきた。
きっと、琥太郎がごちそうしてくれた、ディナーでお腹がいっぱいになったせいだ。
夜の街を軽快に駆け抜ける車の後部座席で、私はゆっくりと瞼を閉じた。