助手席にピアス
その意図がわからないまま、とうとう店の前までたどり着いてしまった。五段ある階段を昇った先にあるのは、お店の扉。すでにCLOSEのプレートがかかっているのに、朔ちゃんはガラス戸の扉を遠慮することなく開けた。
ドアベルがカランと響く。促されるまま店内へ足を踏み入れれば、ケーキを並べるショーケースが目に飛び込んできた。
しかし閉店後だからだろうか。あいにく、ケーキは一点も残っていない。
なんだ、残念……。
がっくりと肩を落としてショーケースから視線を上げる。すると、店内の奥からひとりの男性が姿を現した。白いコックコートを着ているから、きっとガトー・桜のパティシエなんだろう。
人を上から見下ろす高い身長は威圧感があり、奥二重の目つきも鋭い。笑えばそれなりに格好いいはずなのに、彼は私を見ても愛想笑いすら浮かべることはなかった。
いわゆる強面な顔立ちをしているこの彼が、繊細な洋菓子を作るなんて信じられない。
「忙しいのに悪いな。真澄(ますみ)」
「いや、どうも」
朔ちゃんが真澄と呼んだ彼は、莉緒さんに向かって小さく頭を下げると、食い入るように私を見つめた。
「真澄、この子が前に話した、青山雛子ちゃん」
「朔?」
「ん?」
「コイツまだ、未成年じゃないのか?」
み、み、未成年って!!