助手席にピアス

たしかに私は背も低いし、童顔だし、髪型だって幼い頃からずっとショートボブのまま。だけど、今日は朔ちゃんとデートするために気合を入れて、紺色のワンピースを選んで、八センチヒールを履いて、大人の女を演出したのにっ!

初対面なのに私を未成年扱いした彼を、思い切り睨みつける。

「あはは。雛子ちゃんは弟の琥太郎と同じ歳の二十四歳。れっきとしたレディだよ」

朔ちゃんのパーフェクトなフォローを聞いた途端、斜めだったご機嫌ももとに戻った。

「朔ちゃん、どうして私をこのお店に連れてきたの?」

彼を無視して、朔ちゃんに尋ねる。

「ああ、紹介がまだだったね。彼は僕の知り合いの桜田 真澄(さくらだ ますみ)。この店のオーナー兼パティシエなんだ。そして、この店に来た理由だけれど……」

朔ちゃんの話が終わってもいないのに、桜田さんは背中を向けると店内の奥へ姿を消してしまった。彼のマイペースな行動に朔ちゃんは苦笑する。

「雛子ちゃん。アイツ、無愛想だけど根はいいヤツだから」

まったく、朔ちゃんは人が良すぎるんだから!

鼻息を荒げていると、桜田さんはまた店内から姿を現した。

「こっち、来るか?」

「ああ、お邪魔するよ」

桜田さんが言う『こっち』とは、ショーケースの奥に見えるガラス張りの厨房のことらしい。朔ちゃんと莉緒さんと私は、ゾロゾロと厨房に移動する。そして辺りをぐるりと見回した。

< 64 / 249 >

この作品をシェア

pagetop