助手席にピアス
たしかに私は背も低いし、童顔だし、髪型だって幼い頃からずっとショートボブのまま。だけど、今日は朔ちゃんとデートするために気合を入れて、紺色のワンピースを選んで、八センチヒールを履いて、大人の女を演出したのにっ!
初対面なのに私を未成年扱いした彼を、思い切り睨みつける。
「あはは。雛子ちゃんは弟の琥太郎と同じ歳の二十四歳。れっきとしたレディだよ」
朔ちゃんのパーフェクトなフォローを聞いた途端、斜めだったご機嫌ももとに戻った。
「朔ちゃん、どうして私をこのお店に連れてきたの?」
彼を無視して、朔ちゃんに尋ねる。
「ああ、紹介がまだだったね。彼は僕の知り合いの桜田 真澄(さくらだ ますみ)。この店のオーナー兼パティシエなんだ。そして、この店に来た理由だけれど……」
朔ちゃんの話が終わってもいないのに、桜田さんは背中を向けると店内の奥へ姿を消してしまった。彼のマイペースな行動に朔ちゃんは苦笑する。
「雛子ちゃん。アイツ、無愛想だけど根はいいヤツだから」
まったく、朔ちゃんは人が良すぎるんだから!
鼻息を荒げていると、桜田さんはまた店内から姿を現した。
「こっち、来るか?」
「ああ、お邪魔するよ」
桜田さんが言う『こっち』とは、ショーケースの奥に見えるガラス張りの厨房のことらしい。朔ちゃんと莉緒さんと私は、ゾロゾロと厨房に移動する。そして辺りをぐるりと見回した。