助手席にピアス
「うわぁ!」
大型冷蔵庫に、二段式のオーブン。そして大小のステンレスボールに、様々な形をしたケーキ型。ありとあらゆる調理器具が並ぶ厨房に足を踏み入れた私は、通っていた製菓専門学校を思い出し、思わず胸が高鳴る。
そして微かに香る洋菓子の甘い匂いに包まれていると、自然と心が落ち着いていくのを実感した。
そんな中、桜田さんが用意したのだろう。無機質なパイプ椅子が三脚と、ステンレスの作業台にコーヒーが入った紙コップが三つ置かれていた。
どうやらこれが、桜田流のおもてなし、ということらしい。
すでにパイプ椅子に座っている朔ちゃんと莉緒さんにならって、私も静かに腰を下ろした。
「それで? いつから働けるんだ?」
突然、私の顔を見つめながら、桜田さんはそう言う。
意味がわからずに朔ちゃんを見つめると、困ったように眉根を寄せていた。
「真澄は相変わらずせっかちだな。実はまだ雛子ちゃんに全部説明していないんだ」
「そうだったのか。じゃあ、今すぐ話せ」
「ああ」
朔ちゃんと桜田さんが交わす話が、全く理解できない私は、ふたりの顔をキョロキョロ交互に見つめた。
「雛子ちゃん。実は琥太郎から雛子ちゃんの今後のことについて相談されたんだ」
「えっ? 私の今後?」
琥太郎ったら、いったい朔ちゃんになにを相談したの?
心の中で、不安の渦が大きくうねる。