助手席にピアス
「雛子ちゃん、琥太郎から聞いたよ。今の仕事辞めたいんだって?」
「ええっ!!」
たしかに私は琥太郎の前で、仕事はおもしろくないし、元カレの亮介と白石あゆみさんがいる会社を辞めたいと言った。
けれどそれは愚痴のようなもの。まさか本気にするなんて……。
「それでさ、琥太郎と一緒に考えたんだけど、製菓学校を二年間も通ったんだから、やはりそのスキルを活かすべきだという結論にたどり着いたんだ」
私を差し置いて朔ちゃんと琥太郎がそんな大事な話をしていたなんて、まさに寝耳に水……。
心配かけたことを、朔ちゃんに謝らなくちゃ。
「あ、あの……」
おずおずと口を開きかけたけれど、私の小さな声は朔ちゃんの気迫ある言葉に掻き消されてしまった。
「そこで知り合いの真澄が、東京で洋菓子店を開いていることを思い出してさ。真澄に雛子ちゃんを雇ってもらえないかって打診したんだ」
ガトー・桜に連れて来られた理由は、よくわかった。そして朔ちゃんと琥太郎が、幼なじみの私のことを、とても心配してくれていたことも理解した。
「朔ちゃん、ごめんなさい。たしかに私、仕事を辞めたいって琥太郎に言ったけれど、それは本気じゃなくて……」
「え? そうなの?」
「う、うん。」