助手席にピアス
「まあ、まあ。一番悪いのは早とちりをした琥太郎だから、雛子ちゃんはなにも気にしなくていいからね」
「う、うん」
肩を落とす私の頭の上に、朔ちゃんの大きな手が乗る。朔ちゃんの優しい慰めは、ガトー・桜の厨房に立ち込めていた重苦しい空気を一掃してくれたような気がした。
イスに座り直すと紙コップに手を伸ばして、桜田さんが淹れてくれたコーヒーをひと口味わう。
「それで、朔。イメージは?」
「ああ、ショートケーキベースがいいかなって、莉緒と話していたんだ」
すでに温くなってしまったコーヒーを飲みながら、ふたりの話に耳を傾ける。
なにやら急にケーキの話になったみたいだけど……。
朔ちゃんと桜田さんの会話を聞いても、私にはなんの話なのかさっぱりわからない。はてなマークを飛ばす私を見た朔ちゃんは、クスッと小さく笑った。
「実は今日、真澄の店を訪れたのは、雛子ちゃんのことだけが理由じゃないんだ」
「え? そうなの?」
「ああ。敏腕パティシエの真澄に、僕と莉緒の二次会のウエディングケーキを作ってもらおうと思ってね」
私の目の前で、朔ちゃんと莉緒さんが微笑み合う。失恋の傷がまだ癒えてない私にとって、ふたりの幸せそうな姿を見るのは、正直辛かった。
でも、朔ちゃんと莉緒さんがどんなケーキをオーダーするのか興味が湧く。
「莉緒のイメージは、たしか大盛りのケーキだったよね?」
「えっ?」