助手席にピアス
「クソッ。兄貴の奴、そんないいところに雛を連れて行ったのかよ」
自分だけが、おいしいお肉を食べられなかったことと、私の食事代がいくらするのかが、気になっているんだろう。
「お蔭で元気が出た。琥太郎、ありがとう」
「ど、どういたしまして」
もしかして琥太郎は、しゃがみ込んでヘコんでいるかもしれない。その姿を想像したら、笑いが込み上げてしまった。
しばらく笑っていると、ふと朔ちゃんのことを思い出す。
「うん。あ、そうだ! 琥太郎! 朔ちゃんが結婚するって、どうして教えてくれなかったの? いきなり莉緒さんを紹介されてビックリしたんだから」
ビックリと言うか、本当はガッカリな気持ちの方が大きかったんだけどね。
「だってさ、雛がショック受けるだろなと思ったら、なんか言いそびれちまって……悪かったな」
たしかに……。
琥太郎の口から朔ちゃんが結婚するって聞いていたら取り乱して、婚約者の莉緒さんのことを根掘り葉掘り聞き出していたかもしれない。
そして中学一年生の時の失恋を思い出して、泣いたかも……。
「それで雛。会社辞めて、兄貴の知り合いの店で働くことにしたのかよ?」
あっ! おいしいディナーと朔ちゃんのことに気を取られて、肝心なことを忘れていたっ!
勝手に勘違いをした琥太郎に向かって、鼻息を荒らげた。