助手席にピアス
「もう、琥太郎ったら変な勘違いしないでよね!」
「は? 勘違い?」
不思議がる琥太郎に間髪を入れずに、まくし立てる。
「そうだよ。たしかに会社を辞めたいって言ったけれど、あれは本心じゃなくて……。とにかく私は今の会社は辞めないし、桜田さんのお店で働かないから」
しばらく沈黙が続いたあとに聞こえてきたのは、ため息交じりの琥太郎の言葉だった。
「まあ、雛がそう決めたらなら、それでいいけど……なんだか思い通りにはいかねえもんだな」
私には、琥太郎の考えていることがサッパリわからない。
「思い通りって……琥太郎、それってどういう意味?」
「……」
私の問いかけに対して、琥太郎の返事はない。
「琥太郎!」
シビレを切らした私が声をあげると、渋々といった感じの小さな声が聞こえてきた。
「雛が会社を辞めてケーキ屋で働けば、必然的に兄貴たちのウエディングケーキを雛が作ることになるだろ?」
「うん」
「それってさ、兄貴への最高のプレゼントになるんじゃねえかな、って思ったんだよ」
琥太郎の言葉を聞いた私は、ハッと息を呑んだ。
もし、私がハニーフーズの仕事を辞めてガトー・桜で働くことになっていたら、朔ちゃんと莉緒さんのウエディングケーキを、桜田さんと一緒に作ることになっていたのかな?