助手席にピアス
「琥太郎、帰るの?」
「ああ。前から鈍感だと思ってはいたけれど、ここまでとはな。じゃあな」
「え? どういう意味? ねえ、琥太郎!」
この問いかけには一切答えないまま私に背中を向けながら手をヒラヒラと振ると、琥太郎はあっという間に部屋から出て行ってしまった。
折角、私が一肌脱いで、琥太郎好みのかわいい女の子を紹介してあげようと思ったのにな。この手の話になると、ほんと照れるよね。
琥太郎の赤くなった耳を思い出しながら、お腹を抱えて笑った。----
幼なじみの私に、彼女ができたことを内緒にしなくてもいいのに……。
相変わらず、照れ屋なんだから。
赤くなっているはずの琥太郎の耳を想像しながら、からかう。
「デートの邪魔しちゃってゴメンね。今度そっちに帰った時に、彼女を紹介してね。こうちゃん!」
「雛!」
「じゃあね」
彼女とデート中だったのなら、私からのコールなんか無視してもよかったのに……。
琥太郎の彼女に対して、ちょっぴり申し訳ない思いを抱きながら通話を終わらせた。
琥太郎のことを『こうちゃん』と呼ぶ彼女は一体、どんな女性なんだろう。
一瞬だけ声が聞こえたけれど、あの声と同じようにかわいらしくて守ってあげたいタイプなのかもしれないな。