助手席にピアス
Sweet*10

ガトー・桜


今週も平日五日間の仕事を無事に終えた私は先週と同じようにトートバックを抱え、最寄り駅から電車に乗り込む。ただ、先週と違うのは最寄り駅までダッシュをしたということ。

年配の婦人から『午前中に来ないと買えないわよ』と親切に教えてもらったのに、あろうことか寝坊をしてしまったのだ。

今の時間だとガトー・桜に到着するのは正午ギリギリの時間になってしまうだろう。

ああ、どうか、ケーキが売り切れませんように……。

そう祈りながら五駅目で降りると、足早にバスに乗り込んだ。



停留所でバスを降りてなだらかな坂を上る。見えて来るのは、横断歩道の向かいの角地に建っている二階建ての一軒家。

目的地であるガトー・桜の前にようやく到着すると、店の中から白い箱を手にした家族連れが出てきた。

よかった。まだ営業しているみたい。

安堵しながら五段ある階段を駆け上がり、ガラス戸の扉に手を伸ばした時、カランとドアベルが鳴った。自動ドアでもない扉が目の前で勝手に開いたのは、店の中からコックコート姿の桜田さんが出てきたから。

「あっ、こ、こんにちは」

まさか店先で桜田さんと会うと思っていなかった私は、慌てて挨拶をした。でも桜田さんからの返事はない。

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