助手席にピアス
「ボケっとしてないで食え」
いささか乱暴な口調に、頬を膨らませたくなった。けれど今回の桜田流のおもてなしに感動した私は、フォークを片手に声をあげる。
「いただきます!」
まずはフォークでロールケーキの1/8を切り取り口に入れる。すると、すぐにふわふわのスポンジと、ミルクの味が濃厚なクリームが口の中でとろけた。
「ん~! おいしい! 幸せぇ!」
おいしさで緩む頬を手で押さえると、桜田さんは鼻先で笑う。
「切れ端くらいで大袈裟なヤツだな」
桜田さんは『切れ端くらい』と言うけれど、私にとっては、たかが切れ端、されど切れ端、だ。
「大袈裟じゃないですよ! だって本当においしいんだもん」
軽く反論しつつ、夢中でロールケーキを口に運ぶ。
ふと、ステンレス製の作業台に寄りかかりながら、マグカップのコーヒーを味わう桜田さんを見つめれば、微かに口もとが緩んでいた。
桜田さんのレアな微笑みを目にしたら、感想を素直に口にしてよかったと思った。
だって、パティシエにとって『おいしい』は最高の褒め言葉だと思うから……。
「ごちそうさまでした」
あっという間にロールケーキを完食した私は、姿勢を正す。
「桜田さん。お願いがあります」
「なんだ?」
トートバッグからスケッチブックを取り出すと、本題を切り出す。