助手席にピアス
「学生みたいなチンチクリンなヤツだとセツさんが言っているのを聞いたら、すぐにお前のことだとわかった」
へえ、無愛想な桜田さんでも冗談を言うんだ……。
そう思いながら桜田さんを見つめていたけれど、彼は無表情のままコーヒーを飲み続ける。
「あの、それって冗談でしょ?」
「どうして俺が冗談を言わなくちゃならないんだ?」
え、嘘でしょ? あの親切で優しいセツさんが、私のことを本当にチンチクリンって言ったの?
激しく動揺していると「クックッ」と笑い声が聞こえてきた。
もしかして……ううん。もしかしなくても、私、からかわれたんだっ!
まんまと彼の罠にはまった私は声も出せずに、鯉のように口をパクパクさせた。
「そう怒るな。悪かった」
桜田さんは笑いを堪えながらそう言うと、スケッチブックを閉じる。
「今度朔たちに、どのケーキがいいのか選んでもらうんだな」
「それって……」
差し出されたスケッチブックを胸に抱えると、期待に胸を膨らませる。
「お前がデザインした、ウエディングケーキを作るんだろ?」
「はい! よろしくお願いします!」
「ああ」
桜田さんと共にウエディングケーキを作ることになったと伝えたら、朔ちゃんはきっと喜んでくれるよね。
私が大好きだった、笑顔を浮かべて……。