助手席にピアス
他人には話したくない事情だってあるのに、余計なことを聞いてしまったな……。
膝の上に乗せているトートバッグに視線と落とすと、プライベートなことに足を踏み入れすぎたことを反省した。
無口な桜田さんとの会話はそれきり途絶え、車内は水を打ったように静まり返る。その重苦しい空気を切り開いたのは、意外にも桜田さんだった。
「朔から聞いたか」
「え、なにを?」
唐突な質問の意味がわからず、ハンドルを握る桜田さんを見つめる。
「……俺と朔の関係を、さ」
桜田さんは奥歯に物が挟まったような言い方をした。
「朔ちゃんは知り合いだって言っていましたけど……桜田さん、ふたりはどういう関係なんですか?」
証券会社に勤める朔ちゃんと、ガトー・桜のオーナー兼パティシエである桜田さんとの接点はなんなのか。興味津々に返事を待った。
「朔とは高校が一緒だった」
「えっ? そうなんですか!」
「ああ」
初めて聞く事実に驚き、声が上ずる。
「確か、朔ちゃんの通っていた高校は有名進学校でしたよね? それなのに、どうしてパティシエになったの?」
私がパティシエになりたいと思ったのは、ケーキを作ることも食べることも好きだったから。
じゃあ、桜田さんは?
どんな答えが返ってくるのか心躍らせていると、「クックッ」という小さな笑い声が聞こえてきた。