助手席にピアス
------例えば、食べきれないほど、みかんをもらった時とか、例えば、おはぎをたくさん作った時とか。
「雛子。琥太郎くんのお宅に、おすそ分けに行ってちょうだい」と母親に必ず言われた。
もしかしたら朔ちゃんに会えるかもしれない、という打算的な思いを胸に抱き、心臓をドキドキさせながら琥太郎の家に向かう。
「こんにちは」とチャイムを鳴らせな、琥太郎のお母さんは「雛子ちゃん、いらっしゃい」と優しい笑顔で私を迎えてくれた。そして必ず「ちょっと上がって行って」という流れになる。
少しぽっちゃりして愛嬌がある琥太郎のお母さんと、キッチンのテーブルでおまんじゅうやおせんべいを食べながら、学校の出来事やドラマの話をする時間が私は好きだった。
「やっぱり女の子はいいわぁ。琥太郎なんか、ちっとも話してくれないのよ」が琥太郎のお母さんの口癖。すると、その言葉を聞きつけたように、琥太郎がキッチンに姿を現した。
「雛、いつまで、かーちゃんと話してんだよ。もう九時だせ。送ってく」
「ひとりで帰れるから大丈夫だよ」
「いいから。来いよ」
別に私は琥太郎に遠慮している訳じゃなくて、送ってもらうほどの距離じゃないから、大丈夫だと言っているのに……。
晴れでも雨でも、太陽が眩しい昼間でも、月が綺麗な夜でも……。
琥太郎は徒歩三分の距離を、いつも送ってくれた------。