助手席にピアス
桜田さんに家まで送ってもらっただけなのに、どうして琥太郎との思い出が頭に浮かんだんだろう……。
そんなことをぼんやりと考えながら、シートベルトを外す。そして助手席から降りると、運転席の桜田さんのもとに回り込んだ。
「送ってくれて、ありがとうございました」
「いや。それよりお前、ひとり暮らしなんだろ?」
「そうですけど」
「なら、きちんと戸締りしろ。じゃあな」
さりげなく、私のことを気にしてくれた桜田さんの口から出た別れの挨拶が、琥太郎と交わした『じゃあな』という言葉とシンクロした。
遠く離れた故郷にいる琥太郎のことを思い出してしまったのは、どうして?
自分の気持ちを不思議に思いながら、桜田さんが運転する白いバンを見送った。
ウエディングケーキのデザイン画を描いたことと、ケーキ作りの手伝いをさせてもらうことになったと、朔ちゃんにメールした。
すると朔ちゃんからはもちろん、莉緒さんからもお礼のメールが早速届いた。
どこまでも仲のいい二人に、ちょっとだけ妬いてしまうのは、私の精神年齢が幼いせい?
でも、二人が喜んでくれてよかった。
ホッと息をつくと、スマートフォンが音を立てた。着信相手は琥太郎。
「もしもし、琥太郎? どうしたの?」
「あのさ、兄貴のウエディングケーキ、作ることになったんだって?」