助手席にピアス
Sweet*11
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「雛子、まだ樋口さんのこと引きずっているの?」
イタリアンレストラン・ボーノで本日のオススメの、きのこの和風パスタを食べていると美菜ちゃんが心配げに聞いてくる。
「そんなことないよ。樋口さんとのことは、もう過去のことだもん」
これは強がりではない。『亮介』のことを名前ではなく、自然に名字で呼べるようになったことがなによりの証拠。
「それなら、どうして浮かない顔をしているの?」
自分では普通にしていたつもりなのに、少しの変化に気づく美菜ちゃんは、さすがです。
「実は昨日、琥太郎と話をしたの。でも彼女の話になった途端、なんだかわからないけれど、彼女よりも私の方が琥太郎のことをよく知っているのに、って思っちゃって……」
一晩経っても、琥太郎の彼女に対抗心を抱いてしまった理由がわからなかった。食べすぎて消化不良を起しているみたいに、朝から胸がモヤモヤとしたまま。
それなのに美菜ちゃんは、パスタをつるんと吸い込むと不敵な笑みを浮かべた。
「それって嫉妬じゃない?」
「えっ? 嫉妬?」
何故、私が琥太郎の彼女に対して嫉妬しなくちゃならないの?
美菜ちゃんの言っている意味がわからない。
「雛子って、鈍感だよね」
「鈍感じゃないもん」
おもしろそうにニヤニヤとする美菜ちゃんに向かって、一応、抵抗をしてみる。