助手席にピアス
「ゴメン、ゴメン。それで琥太郎くんとケンカしちゃったの?」
「ケンカはしていないよ。そう、そう。琥太郎と話したのは、朔ちゃんのウエディングケーキのことなんだ」
美菜ちゃんに、朔ちゃんのウエディングケーキのデザイン画を描いたことと、ケーキ作りの手伝いをするに至った経緯を説明する。
「雛子、すごいじゃん! 頑張ってね!」
「うん。頑張る」
美菜ちゃんに琥太郎の彼女のことを打ち明けても、気持ちは結局晴れなかった。でも、朔ちゃんのウエディングケーキ作りを応援してくれたことは、とてもうれしい。
いつまでも、モヤモヤしていても仕方ないよね。
ようやく気持ちを切り替えることができた私は、フォークにパスタをクルクルと巻きつけると、大きな口を開けて頬張ったのだった。
同じミスは繰り返すものかと、平日五日間の仕事を終えた私は朝七時過ぎに家を飛び出す。
土曜日の朝の電車は平日よりも混雑はしておらず、バスへの乗り換えもスムーズに進んだ。
先週は寝坊をしてしまって正午に到着したけれど、今日は八時過ぎには余裕で到着しそう。
きっとあの人は驚き、そして迷惑そうな表情を浮かべるだろうな。
だけど、私の決意はそんなことでは揺るがない。
朔ちゃんと莉緒さん。そして琥太郎の期待に応えるためにも、今、自分にできる最善のことをやろうと決めたのだから……。