助手席にピアス
大きな窓に下げられたロールスクリーンの隙間から店内を覗き込めば、厨房で作業をしている桜田さんの姿をなんとか確認することができた。
すかさずガラス戸の扉に向かい、初めは遠慮がちにノックをした。けれど桜田さんは扉をノックする音に、一向に気づかない。
それならば、と拳を握りしめると、ガラス戸の扉を何度も強く叩いた。すると、ようやく扉がカチャリと開錠され、扉が細く開いた。
「すみません。まだ開店準備中でして……あ?」
桜田さんはまさか私がドアを叩いていたとは、露程にも思っていなかったらしい。切れ長の瞳を大きく開くと、驚きの表情を浮かべた。
「おはようございます」
鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしている桜田さんの脇を、するりと涼しげに通り抜けると店内に入る。そしてバッグににこっそりと忍ばせておいた、赤いギンガムチェックのエプロンと三角巾を身に着けた。
「おい、なにをしている?」
不機嫌極まりない桜田さんの言葉に、思わず身体が硬直した。けれど、これくらいのことでひるんでなんかいられない。
「まずは掃除をしちゃいますね。それから売り場も担当します」
「おい、ちょっと待て」
桜田さんに背中を向けると、店内の奥に荷物を置く。
「桜田さんは厨房でケーキ作りに専念してください」
「おい、俺の話を聞け!」
桜田さんの言葉を無視するように話をドンドン進めていると、彼の大きな声が店内に響き渡る。