My sweet lover
「人の期待通りになる必要なんかないんだぞ」


「え…?」


どういう意味なんだろう…。


「お前は、自分より他人を優先してしまうんだ。

だから、相手が期待する通りに動いてしまう。

誰かが活発だって言ったから活発になったし、誰かが男の子っぽいって言ったからそうなったんだ」


社長の言葉に、心臓がバクバク言ってる。


どうしたんだろう、私。


すごく動揺してる…。


「人の期待通りに動かなくていい。

人がイメージするお前に合わせる必要もない。

お前が感じるままに、お前のしたいようにすればいいんだ。

ホントはお前、女でいたいんじゃないのか?

多分、誰よりも…」


ど、うして…?


どうして社長はそうやって、私の心の琴線に触れるの?


やめて…。


やめてほしい…。


「水沢…?」


膝の上にポタポタと涙がこぼれる。


やだ。


どうして涙が出るんだろう。


社長の前で、泣きたくなんかないのに…。


「ご、めんなさい。

何でもないんです。

何でも…」


止まれ。


お願いだから、止まって…。


その時、私の背中がふわっとあたたかくなった。


「バカ」


気がつけば社長が私のすぐそばにいて、優しく抱きしめられていた。


「泣きたい時は、素直に泣けばいい。

止めようとするな。

思いっきり泣け」


社長…。


「…うっ」


社長の言葉に、私の涙腺は完全に壊れてしまって。


子供みたいに、社長の腕の中で泣きじゃくった。

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