猫に恋する、わたし
Prologue
「だいすきだよ」
一瞬。
その言葉はわたしに向けられたのかと思った。
ヒュルル、と冷たい秋風が落ち葉を攫っていく。
でも彼の少し尖った目はわたしじゃなくて、別の女の子を見てた。
くるくる巻き髪で、ぱっちりお目々の、まるでお人形さんのような女の子。
わたしと正反対の女の子。
「愛菜も伊織君のこと、だいすきだよ」
どこから出してるのかと聞きたくなるぐらいその声は甲高くて、わたしだったらそんな甘い台詞はこっぱ恥ずかしくて絶対言えない。
「うん。やっぱり愛菜はかわいいな」
でも男の子はみんな、素直な女の子が好きなんだろうな。
彼は嬉しそうに、顔をくしゃくしゃにして笑った。
女の子みんなが夢中になるのも頷ける、無防備な笑顔。
ついつい見とれていたら彼と目が合った。
わたしは慌てて止めていた手を走らせ、黒板を消し終えるとそそくさと自分の席に戻った。
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