猫に恋する、わたし
菜々緒がわたしの肩を優しく引き寄せた。
甘いフルーティーな香水の匂い。
「うんばかだね。おおばか。でも」
「でも?」
「あたしは莉子のそういう一途なところ、嫌いじゃないよ。むしろ尊敬する」
「菜々緒…」
「まあ男を見る目だけはもうちょっと養ってほしいけどね」
と笑う菜々緒につられて、わたしも微笑んだ。
「でもさ、これからどうするの?一線を越えたら今までどおりにはいかないし、ケジメをつけないと莉子も辛い思いするだけだよ。それだけはあたし、許さないからね」
わたしは視線を落として、うんと頷く。
「…分かってる。ありがとう」
教室に戻ると、窓際の一番後ろの席に彼の姿があった。
一瞬だけ目が合ったけど、彼はすぐに目をそらしてそばに立っていた谷口さんの手を握った。
「だるい。サボらね?」
「えっでも伊織君、ずっと授業サボってたでしょ。次、数学だよ。鳥居センセ怒ると怖いんだから」
「いいじゃん。俺、愛菜と一緒にいたい。んで、一緒に怒られようぜ」
「もう伊織君、強引なんだから」
口ではそう言っても、彼に誘われたことが嬉しかったのか、谷口さんはまんざらでもなさそうな顔をしていた。
それから二人はずっと手を繋いだまま、教室を出て行った。