猫に恋する、わたし
結局、彼と谷口さんは放課後になっても戻らなかった。
誰もいない教室に、外から部活の掛け声が響き渡る。
わたしは彼の席に腰掛けた。
カタン、と音がして机の中を見ると、何年式だろうか、懐かしいともいえる古いタイプのCDプレーヤーが顔を出した。
時々、彼がこれを持ち歩いている姿を見たことがある。
イヤフォンを耳にかけて、再生ボタンを押した。
「…この曲」
聞き慣れた音色。
HYの「NAO」が流れた。
「勝手に人のもの、触るんじゃねえよ」
サビに入ったところでブチッ、と曲が途切れ、驚いて振り返ると、彼がわたしを見下ろしていた。
「…おかえり」
わたしがそう言うと、彼は鼻で笑う。
「あんたのいる場所が俺の帰る場所じゃないし」
タバコを口に咥え、窓際の壁にもたれるようにして跨った。
その手元には女物の鞄。
「それ、谷口さんの?」
「ん」
「谷口さんは?」
「家まで着替え取りに行ってる」
「…ふうん」
「なに」
「今日は谷口さんが泊まるんだね」
「…だから?あんたには関係ないっしょ」
ズキン。胸が痛んだ。
彼に冷たくあしらわれることは慣れているはずなのに。
彼と一夜を共にしてから、わたしの中のなにかがぐるぐる渦巻いていて、深い霧にかかったよう。