猫に恋する、わたし
わたしは鞄の中にしまっていたCDを取り出した。
「それ…」
彼がお姉ちゃんから借りていたHYの「NAO」。
「お姉ちゃんに返すつもりだったけど、やっぱり伊織君が直接渡したほうがいいかなと思って。これでお姉ちゃんと会う口実ができるでしょ」
「ああ」
「いつ会うかはわたしからお姉ちゃんに聞いてみるね」
いや、と困惑した表情を見せた彼にわたしは首を傾げる。
「悪い。もうちょい待って」
「え?」
「心の準備ができたら、で。いざ会うとなると緊張するのな」
彼にしては珍しく弱々しい声だ。
「どうせ俺はバカでアホでチビででくの坊だから」
と彼は冗談交じりに言った。
ズキン。
やっぱり彼とお姉ちゃんの話をするのは辛い。
一つ一つの表情から、どんなにお姉ちゃんのことを想っているかひしひしと伝わってくる。
わたしがお姉ちゃんだったらな。
そんなことを今まで何百万回考えてきただろう。