猫に恋する、わたし
翌々日、予想していたとおり、二年の間でわたしと智充君がキスしたという噂が広まっていた。
教室に入ると、体中に浴びせられるクラスメイトの視線が痛い。
「ちょっと莉子!どういうことよ」
もちろん菜々緒の耳にも入っていたようで、わたしは彼女を連れてトイレに逃げ込んだ。
すぐに菜々緒に詳しいことを説明する。
「マジで?人の寝込み襲うなんてあいつ最低じゃんっ!」
「しーっ!菜々緒、声大きい!」
「殴ってくる」
「え、ちょ、だめ。菜々緒!いいって」
トイレを出ようとする菜々緒を慌てて止めに行く。
するとふわり、と甘ったるい香水が鼻先をよぎった。
「ふうん。キスされたんだ」
その声に振り向くと、いつからいたのか以前廊下で伊織君に寄り添っていたあの女の人が鏡の前でグロスを塗り直していた。
確か、長谷川麗美という人。
「…それがなにか?」
この人とは初めて話すけれど、女の直感というものなのか、なんだかすきにはなれない、そう思った。
だって人の話を盗み聞きするなんて最悪。
「そんなに怖い顔しないで。せっかくのかわいい顔が台無しだよ」
ふふ、と麗美先輩は一笑するとわたしの頭を優しく叩く。
口元のホクロが色っぽい。
鏡を見ると、大人と子どもが並んでるみたい。
年が一つ違うだけでこんなに差が出るなんて神様は不公平だ。