猫に恋する、わたし
「今ね、本当かどうか聞いてたとこなの」
「ふうん」
「なんか付き合ってるみたいだよ」
わたしは唇を噛んだ。
誰もそんなこと言ってないのに。
たいして興味もなさそうに彼は「へえ」と言いながら窓際の一番後ろの席に腰を下ろす。
ーま、あんたが誰とナニしようが俺には関係ないし。
分かってる。
何かを期待したわけじゃないけど、彼にとって、わたしはーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「くっだらねえ」
それまで騒がしかった教室がしん、と静まり返る。
一瞬、空耳だと思った。
でもそれは紛れもなく、彼の声で。
わたしは驚いて彼の席に目をやった。
「小せえことでぎゃあぎゃあ騒いで、お前ら幼稚園児かよ。今時、幼稚園児でもキスぐらいフツーだから」
怒声を張りあげる彼の迫力に、教室にいたみんなが気圧される。
「おい羽生。なにイカってんだよ」
「近藤、お前さTwitterであんなもん流すなよ。あれプライバシーの侵害。愛菜も根掘り葉掘り聞くな」
「…伊織君」
「大体、あいつ宮川と付き合ってないし」
ふいに、彼と目が合った。
じっとわたしを見つめるその表情はとても柔らかくて。
信じられない。
彼がわたしのことを庇ってくれるなんて。
嬉しくて涙が出そうだ。