猫に恋する、わたし
この距離が近づくトキ
まるで夢を見ているみたい。
彼のキスはタバコの苦い香りがして、
このまま死んでしまうんじゃないかと思うぐらいに心臓がドキドキして、
わたしは今にも倒れてしまいそうだった。
「どういうこと?」
彼に見とれて夢心地に浸っていたわたしの目を覚ましたのは谷口さんの声だった。
恐る恐る振り向くと、今までに見たことのない表情で、わたしを睨みつけている。
谷口さんが怒るのも、無理はなかった。
だって誰もが認める、彼の唯一の”カノジョ”だったから。
「じゃあ愛菜は伊織君の何だったの?」
教室中が緊迫感に包まれる。
彼は口を閉ざしたまま、わたしの手をとって教室を出ようとした。
すると谷口さんが彼の前に立ちはだかり、平手で彼の頬を打つ。
パンッと乾いた音が響いた。
「信じてたのに…ッーー」
涙目で彼を睨みつける谷口さんを彼は一目もくれず、教室を出ていった。
廊下で智充君と麗美先輩がこっちを見ていたけど、わたしはなんとなく目を合わせないように俯いたまま、彼の背中を追った。