猫に恋する、わたし
「別に。ああ言っておけば線引きができるだろ。俺はあんたを利用しただけ」
つまりあのキスも、あの言葉も、彼にとっては他の女の子を遠さげるための手段。
それが分かると、まるで魔法が解けたように、一気にどん底に突き落とされた気分だ。
「なに、拗ねてんの」
「…ひどい」
「…」
「わたし嬉しかったのに。キスなんて、ずっとしてくれないって思ってたから。ひどいよ伊織君」
わたしが涙ぐんでいると、彼は面倒くさそうに、
「勘弁しろよ。あんたもよく分かってるだろ、俺がそういう男だってこと。勘違いも甚だしい」
と言った。
彼とわたしの間で沈黙が流れる。
「…もういいよ」
わたしもどうして学習しないんだろう。
彼に期待をしても、傷付くのは目に見えているはずなのに。
しばらくうつむいたまま立ち止まっていると、彼は二度目のため息を吐いて屋上へと向かった。
「勝手にしろ」と言い残して。
だって、悔しかった。
わたしにとって彼とのキスは特別なものででも彼にとってはそうじゃなくて、それがとてつもなく悲しかった。
ずっと夢見ていたことがこんなあっけなく終わってしまうなんて。