猫に恋する、わたし
「あっいたいた。莉子、こんなとこで何してんの」
校舎の裏に咲いているパンジーを眺めていたら、その向こうにある渡り廊下から菜々緒が駆け寄ってきた。
「一体どうしたのよ。授業もサボってこんなとこで」
時計の針は昼休みの時間を差していた。
彼と別れてからずっと外にいたわたしの手足は冷えて思い通りに動かせない。
「…だって戻りづらいんだもん」
「クラス中、莉子と羽生伊織の噂で持ちきりだよ。キスしたんだって?」
菜々緒はにやにやと笑っている。
まるで他人事みたいに楽しんでいるみたいで、わたしはむくれた。
「見てたの?」
「ううん。でも私、羽生伊織のこと見直したかも」
「なんでよ」
「実はさ、言っちゃったんだよね」
「何を?」
「莉子が麗美先輩に水ぶっかけられたこと」
「…それって」
「ごめんね。莉子に口止めされてたから言うつもりじゃなかったんだけどさ、羽生伊織に呼び出されて問いつめられたのよ。なんでジャージなんだ、とかなんで髪濡れてんのかとか、そりゃあもう取り調べみたいだった」
「…」
「莉子がいつもと様子が違うことに気付いてたみたい」
「嘘…」
「本当のこと言ったら顔色変わってどこか行っちゃったと思ったら、チューしてんだもん。びっくりしたよ」