猫に恋する、わたし
嘘。
ーこいつと付き合ってるのは俺だから。
あのキスも、あの言葉も、彼にとっては他の女の子を遠さげるための手段のはずで。
「違うよ。だって彼、言ってたもん」
ーああ言っておけば線引きができるだろ。俺はあんたを利用しただけ。
菜々緒は言った。
「それってさ、莉子をかばうためじゃないの?もう二度と水ぶっかけられないように」
ふと、麗美先輩の顔が頭に浮かぶ。
彼とのキスを麗美先輩に見られて、わたしは最悪のタイミングだと思っていた。
でももしかしたら、
ただの偶然じゃなかったらーーー。
「羽生伊織なら、まだ屋上にいるよ」
「…」
「ほら、行ってきなよ」わたしの背中を押す菜々緒。
「でも…」
なかなか前に踏み出せずにいるわたしは下を向く。
「また変に期待なんかしたらわたし、傷付くのが怖い…」
すると、菜々緒は大きくため息を吐いて言った。
「そんなの今更じゃん。そもそも羽生伊織を好きになった時点で傷付くのは目に見えてたでしょ。だったら最後まで貫きなよ、その気持ち。傷付くのを恐れてたらいつまでたっても前に進めないよ」
「そうだけど…」
「それともなに、ずっと愛人のままでいいわけ?」
「…やだ」
「だったら行ってきな」
「…」
「ほら」と菜々緒がまたわたしの背中をポンと優しく押した。
その温もりが後押しになったわたしは決心したようにぎゅっと手を握る。
「…うん」