猫に恋する、わたし
景色が変わる。
ー羽生伊織を好きになった時点で傷付くのは目に見えてたでしょ。
菜々緒のその言葉に、わたしはハッとした。
彼と初めて会ったあの日から、
彼がお姉ちゃんだけを見つめていると分かってもこの気持ちはずっと止めることができなかった。
どうしてだろう。
すぐに諦めることができたなら、わたしはとうに楽になっていたのに。
こんなに苦しむことなんてなかったのに。
こんなに”すき”でいることを嫌いにならなかったのに。
「何の用?」
屋上に出ると、ペントハウスで横になっている彼の姿が見えた。
「そんなにツンケンしないでよ。こないだキスしたことまだ怒ってる?」
でも彼の隣には先客がいた。
太陽の光で栗色に光るパーマのかかった長い髪。
麗美先輩だ。
「そんなこととっくに忘れました」
わたしはふたりに気付かれないように、ペントハウスの下で静かにしゃがみ込んだ。
「だったらそのしかめっ面はやめて、私を見て。せっかくのイケメンが台無しだよ」
朝トイレで見せた態度と打って変わった甘い口調。
たぶん、女の子が一番嫌いな女の代表。
「ねえ、しようよ」
それでも男の子は妖艶な彼女に惹かれてしまうんだろうな。
彼だってーーー。
「触るな」
彼が麗美先輩の手を振り払う音が青空に響いた。