猫に恋する、わたし
Chapter.3
ひとときの幸せ
「もうすぐ文化祭かー」
掲示板に貼り出された行事の一覧表を見ながら、菜々緒はため息をついた。
実行委員に選ばれたせいか、その顔は憂鬱そうだ。
「うちのクラスの催し決まった?」
「んー…」煮え切らない返事。
「どうしたの」
「昨年と一緒で合唱っていう案もあったんだけど、ピアノできる人ってあの子しかないじゃん」
「…ああ」
教室の中でただひとつの空席がやけに目立つ。
彼と別れたあの日以来、谷口さんは学校を休むようになった。
「相当ショックだったんだね」
わたしは何も言えないでいた。
そんなわたしを気遣ってか、菜々緒は話題を変える。
「それで莉子はどうなのよ。相変わらず、羽生伊織とラブラブなわけ?昨日も一緒に帰ってたでしょ」
「うん。でもそんなんじゃないよ。方向が同じだから一緒に帰ってるだけだし」
「またまたぁ。もうそれって付き合ってるのも同然じゃん」
「違うよ」わたしは即座に否定した。
「じゃあなに、まだ愛人ってこと?」
「ううん」
「だったらどんな関係なのよ」
「うまく言えないけど…」
「けど?」
「あれから、わたしたち、一からこう…、やっと出てきた芽を育んでるというか。自分でもよく分からないんだけどね」
「ふうん、なるほど。友達以上恋人未満てわけだ」
「うーん。どうだろ…」
渡り廊下の向こうから聞こえる笑い声。
まるで少年のような笑顔で男子と戯れている彼を見ていると、視線を感じたのか目が合った。