猫に恋する、わたし
「わたしは」日比野さんの目を真っ直ぐに見つめていった。
「伊織君のこと、諦めないから」
晴れ渡る空の下、ペントハウスで彼は気持ちよさそうに寝転がっている。
そののどかな光景が愛しくてしばらくその横顔を遠くから眺めていると、気が付いた彼が「また見てる」と呆れ顔で大きくため息を吐いた。
だって、やっぱりかっこいいんだもん。
すきすぎて、どうしようもないぐらい。
「ねえ伊織君」
「んー」
「今度の文化祭、一緒にまわりたいな」
「無理」
「どうして?」
「かったりーし、俺その日休むつもりだから」
「…そう、なんだ」
授業だってまともに出席しないのだから分かってはいた、でも。
ドボン、と泥沼に浸かった気分だ。
「そんなに落ち込むことかよ」
「だって…」
わたしの中では文化祭イコール、恋人同士のイベントだから。
もちろんわたしと彼は本当の恋人同士じゃないけれど、偽物だけれど、学校の中だから少しぐらいカノジョらしく望んでもいいよね。
「わたし、伊織君とまわりたい」
「やだ」
「どうしても?」
「やだ。無理」
それからも「やだ」のオンパレード。
あまりにも頑なに嫌がるので、
「伊織君がいなかったら、わたし他の人とまわっちゃうかも」
なんて冗談で言ってみたら、彼の目色が変わった。
「は?」
しまった、とわたしは言ってから後悔する。
「勝手にすれば?」
彼はわたしを軽蔑するような眼差しで冷たく吐き捨て、そのまま屋上を出ていってしまった。