猫に恋する、わたし
「ごめんね、びっくりしたでしょ」
「…どうしたの、お姉ちゃん」
きっと今のわたしの顔、ブサイク。
彼に約束をしておきながら、二人の再会を喜べないわたしが心の中にいることに気付いたから。
「あのね、お母さんから持っていけって頼まれて。ほら、これ」
差し出されたのは淡い桜色の風呂敷に包まれたお弁当。
「いやお母さんに言ったはずだけど。きょう文化祭だって。だからお弁当はいらないって」
「うん。私もびっくりした。だってここに来て文化祭やってること初めて知ったんだもん。お母さん、持ってけ持ってけってしつこくて。私、これから駅に行くからそのついでに持ってきたのよ。いらないなら私が食べるけど」
「いいよもう。わたしが食べるから」
渋々とお弁当を受け取るわたし。
お母さんてば。
余計なことをしてくれちゃって。
お姉ちゃんはキョロキョロと辺りを見渡すと、
「…ねえ、彼は?」
と言った。
どきり、とした。
まさか、お姉ちゃんとまた、彼のことをこうして話す日が来るなんて。
二人が別れてから、自然とわたしとお姉ちゃんの間では彼の名前さえもタブーになっていたから。
「伊織君ならーー」
「久しぶりです。茜さん」
驚いて振り向くと、彼が今までに見たことのない笑顔で立っていた。