嗤うケダモノ

言葉を遮られた日向が顔を上げると、伸びてきた由仁の人差し指が軽く唇に触れた。

彼の言った意味を理解し、日向の頬が見る間に色づく。


「…
ヒナは律儀だネー。」


日向の唇に乗せた指を滑らせて顎を掬い上げた由仁が、妖しく笑った。


「また、俺のオネガイ聞いてくれるのー?」


(…そーきたか。)


感謝のキモチが折れそーデス。

辛うじて溜め息を飲み下した日向が視線を逸らすと、あるモノが目に飛び込んできた。

それは、由仁の首。

正しくは、首にクッキリ浮き出た鬱血の痕。

日向のために彼が払った、犠牲の証…

人間のモノではなくなった、アキたちの顔。
壁に叩きつけられた椅子や、一瞬で裂けた布団。

そして、あの黒い霞み…

記憶を辿ると、今でも心臓が凍りつく。

よく元に戻れたよ、アキたち。
よく生きて帰れたよ、自分。

ソレもコレも全て、彼のおかげなのだ。

軽いノリでやって来て、ふざけたコトを言って逃げもせず、そして今も、何も変わったコトなど起こっていないかのように妖艶に嗤う、傷ついたケダモノの‥‥‥

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