嗤うケダモノ

「ジン… ごめん。
本当にごめんなさ ぅいっ?!」


杏子の両頬がギュっと抓られ、思いきり横に伸ばされた。

驚いて視線を上げると、そこには悪戯そうに光る由仁の瞳。


「ハハ、変な顔ー。」


「っ?!
うるひゃい!
このバカ息子!」


由仁の手を払いのけた杏子は、赤くなった頬を両手で擦りながら声を荒らげた。


「ジン! いつも言ってンだろ!
人の話は」


「茶化さないで最後までちゃんと聞きなさーい、でショ?」


いつも通り艶やかに笑った由仁が、杏子の言葉を継いだ。

って… あら?
笑ってる?

目を瞬かせる杏子の、少しズレてしまった簪を由仁が差し直す。
柔らかく微笑んだまま…


「さっき杏子さん『他人事みたいに』って言ったでショー?
ぶっちゃけ、全部他人事みたいに聞こえるの。」


「は… ナニを悠長な」


「最後までちゃんと聞きなさーい。」


…ナマイキすぎンだろ。

杏子は由仁をひと睨みして、口を噤んだ。

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