嗤うケダモノ
「杏子さんは俺の本当の母親じゃないンじゃねーか、とか。
ドコかに本当の家族がいるンじゃねーか、とか。
俺、今まで考えたコトもなかったの。
それは、俺が幸せだったから。
杏子さんが、ずっとエラソーに母親面してくれてたから。
でショ?」
「ジン…」
「いつか親族がひょっこり出てきた時、どんな風に反応しちゃうのか想像もつかないケド…
杏子さんは、俺の母親だから。
今までも。
これからも。
ナニがあっても、ネ?」
謝らないで、むしろ感謝しかねーよ、なんて言って、由仁は立ち上がった。
もう夕飯できてンじゃね?見てくるー、なんて言って、由仁は客間を後にした。
ずっと、微笑みながら。
杏子は言葉を失ったまま、握りしめた自分の拳に視線を落としていた。
「なんとも懐の深い男になったもんじゃて。」
カっカっカ、と独特の笑い声が部屋に、耳に、優しく響く。
「フニャフニャと泣くだけの、寄る辺ない赤子じゃったのに。
のぉ?」
腕に抱いた小さなぬくもりを思い出す。
そのぬくもりは限りなく大きくなり、抱いていたつもりがいつの間にか抱きしめられていた。